天国に囲まれてる場所で、乾いた川に水が流れた時、人は夢を見る。きれいな水と汚れた水が交互に流れる。汚れた水では数多の固い小石は流れない。きれいな水が流れた時、乾いた川は生き返り幸せをもたらす。
ただ人は夢を裏切る。裏切られた夢は儚く消え、やがて天国に堕ちる。丸い籠の中で産まれた苦しみは、どこへ堕ちても必ずと、天国が包み込んでくれる。だからぼくは何も怖くない。

 

好きなこと、嫌いなこと。嫌いなことはしたくない。好きなことは信じたい。唯物論の中で産まれたぼくは"自分自身だけの"虚構しかわからない。ただの「虚構」なだけなので、ぼくを騙すために作られたのではない。よってフィクションを虚偽かどうかを判断するやいなか、物事に対して"自分自身だけの"自明性"によって支えているのだ。

 


ぼくがココにいるとき、足場ができる。
見えない頭の外には足場がない。
ぼくがソコに存在したとき、足場はつくられ空間と時間をつくる。そのとき"ココ"は一時的に消える。

 


ねこが眠いと鳴いていた
空が嘘をついた…

 


目が覚めるまでは何も知らなかった。
知らないほうがよかった…
知ってから後悔しては無意味という当たり前の理論を
ぼくは信じたくはなかった・・・

 

 


カーテンが揺れて風と光が入ってきていることに気がついた。
ヒステリックさんはにこにこしていた。
いつものように外に出る。
きららさんと夢ありさんと地震さんが話している。

 

)昨日なかなか塾の課題が終わらなくって…
しかもその後読書に熱中してたから寝るの遅くなっちゃったんだよね

)あたしは彼氏が学校まで迎えに来てくれたから、そのまま遊びに行ったんだけど、親がうざくて家に帰りたくなかったから彼氏の家に泊まってたー

)みんな充実してていいな。わたしなんか昨日家に帰ってから暇すぎて、勉強もしたくなかったしTwitter見てキャスして夜更かししてただけだよ

 

変わらない日常の会話の中に溶け込めないので、無意味と判断し耳を貸すのをやめた。
かわいい食べ物やかわいいメイク道具、かわいいアイドルみたいな自撮りが並ぶネット世界。
現実では自撮りするためだけに、カラコンを入れてアイプチをして、用事もないのにメイクして服を着替える。そして沢山の中から厳選した写真を加工して満足している人たち。その工程を隠し続いている時間の流れの一部を、静かに取り上げたように載せる。
みんな頑張って生きている。
みんな頑張っている…


頑張っているのにも色々な意味が存在するの
だ!!!!!

 


ぼくはトイレに行き、隠れて悪事を働かす。
思考停止して時間が戸惑うことなく流れていくのが非情に豊かなものである。誰も知らない感情が、身体を包んで寂しさを消してくれた。
このまま包んでいてくれ、と儚く思う。とても虚無で虚しいものだ。

 



決められた時間を過ごし、自由に戻る。
天気はとても良く、楽しそうな声が聞こえた。
全て裏切って消えてしまいたくなる。
ねこが寂しいと鳴いていた


たくさんの整列した人の列に並び、ぼくはバスに乗った。とても天気が良く、ゴトゴトと揺られながら病院へ向かう。

 

バスの中に一人の男の子と、一人の男の人が乗ってきた。二人は前の席に一緒に座った。男の子は同い年くらいだろうか。高校生くらいのように見えた。その子は一言も話さず静かにスマホに目を向けた。

 

なにのうのうと生きてんだ!!!!お前、今の状況もわかってないのか!!!!ふざけんな!!!!

 

とても大きな声が静かなバスの中に響いた。
怖かった。
なにが起きたのかわからなかった。
男の子はスマホを見るのをやめ、怒鳴り散らした声に驚きを隠しながら目線を上げた。

 


お母さんが病気で危ないんだぞ!!!!これから大きな手術があるんだ!!!もう助からないかもしれないんだぞ!!!今お母さんはこの病院の中で一番危険な患者なんだと一番偉い先生が言ってたんだ!!!それも理解しないでお前はなんで何も言わない!?!?お前がお母さんと変わって苦しい思いを知れ!!!!この親不孝が!!!!

 


親不孝・・・

 

男の子はやはり一言も話さなかった。目に涙を浮かべ怯えていた。男の人の怒鳴る声はとても怖いものだった。男の人にはバスの中の人々が見えていないようだった。

 

人間はどうしようもない苦しみに押しつぶされて限界を迎えた時、自分の苦しみを自分が思うそのままに、全てを相手に理解して欲しくて誇張した発言をしてしまう。憤慨した感情が漏れた時、周りが見えなくなり、今まで誰にも当たれなかった怒りを、当たってしまいたくない相手に我慢ができずに傷つけてしまう。傷つけたくない人を大切にしていたいのに、憎しいどうしようもないやるせない気持ちや、理性や知性では抑えきれなくなった情念を、恣意にぶつけてしまう。感情は理屈では捉えきれない非合理なものである。

 

なによりも大切なものを失うということ。
願っても叶わない不幸な事実を現実には受け入れられなかった。

 

だが、男の子は親不孝なことをしたのか。
公共の場で沢山の人に見られながら怒鳴られる惨めな姿はとてもストレスなものだと思う。いや、惨めな姿ではない。とっても強かったのだと思う。
涙が浮かんだ目に親不孝は見えなかった。怒鳴られた言葉に反抗せず、男の人の感情をしみじみと受け止めていた。


ぼくは逃げたかった。幼い時を思い出してしまったから。無理矢理受け入れるという寂しさに、やり切れなくて悲しかった。

 


誰かが安心させてあげなきゃいけない。
誰かが受け止めてあげなきゃいけない。
そして個人のイデオロギーを壊さなければいけない。その理念を壊すことによって、その空いた心を誰かが埋めてあげれば人を救えるのではと思う。
不幸に不幸が重なると、微小のことですら不幸に感じ、幸せを見つけられなくなる。その感情がパラドックスとなり、いつまでも抜け出せなくなる。きっとその前に、早めに助け出してあげることが必要なのだ。
でも、それは相手に負担がとてもかかる。優しさだけではどうにもできない。

 


とても虚しい…
男の子は壊れてしまうのだ…



外が暗くなってきた。雨が降ってて外は寒そうだ。温かい光の家の中で迎えられ、温かいご飯を食べ、きれいなお湯に浸かり、ぬくぬくした布団に入った。

 

今日もきららさんと夢ありさんと地震さんは生きていた。それぞれが幸せそうな今日を過ごしていた。考えるのをやめ、電気を消した。

 


温かかった。
なのに、なのに、泣いてしまった
ほんとうの幸せって何?
なんで幸せなはずなのに、泣いてしまうの?
なんで?
なんで誰も答えてくれないの?

もうやめてよ、苦しめないでよ

 

ぼくは夢を見た。
強く抱きしめられた。
幸せが好き。楽しいことが好き。心の底から笑うことが好き。愛されることが好き。
夢を見ることが好き…(?)

 

 

幸せな夢なんか…そんな、そんな夢なんか見たくもなかった。
なんでわたしに幸せな夢を見せたの?
なんでわたしは夢から覚めてしまったの?

 

なんでわたしはこんな世界で生きていかなきゃいけないの!!!!!

 


冬が終わり春がくる輪廻転生を裏切ることでしか幸せはなかった